鏡を見るたびに
胸の奥がじわっと沈む日々。
そんな毎日を何ヶ月?
いえ、何年、続けてきたでしょうか。
目の下の影は少しずつ大きくなり、
それを見るたびに、
「また今日も変わってない」
「この顔のままで生きていくの?」
そんな気持ちが積もっていきました。
自分で自分を愛せない状態は、
表情の暗さをさらに加速させて……
負のループの中で息がしにくかった。
美容外科のビフォーアフターや
誰かの体験記を何度も、何度も見ました。
でもいつも「見るだけ」。
⸻
「歳だから仕方ない」
「お金も時間もかかりすぎる、私には無理」
そうやって自分に制限をかけ続けていたからです。
でも、自分の人生を“生き直す”と決めた時
外見の整えは、
私にとって必要な儀式だと確信しました。
あのくすぶったような精神状態で生き続けるほうが、ずっと心に悪い。
そう思ったのです。
そこからは、憧れや諦めではなく、
“現実の行動”としてクリニックのサイトを見始めました。
大手、個人院、有名院、無名院。
たくさん見すぎて、眠る前まで口コミを漁っていた時期もあります。
最終的に、私は
大手1つと個人院1つの、
ふたつに絞りました。
大手のほうはネットから予約を入れ、
個人院は自分の言葉で直接伝えたい──
そう感じた私は、
電話でカウンセリングを申し込むことにしました。
そして、電話をかけた日。
勤め先のお昼休憩。
ひとりになれる給湯室のドアを静かに閉め、
スマホを持った手が少し震えていました。
もう片方の手には、
メモと、細いボールペン。
「今かけないと、また先延ばしにする」
自分にそう言い聞かせながら、
そっと発信ボタンを押しました。
何コールかして、
女性の受付スタッフが出ました。
「はい、◯◯美容外科です。
初めての方ですか?
カウンセリングのご希望ですか?」
淡々とした声なのに、
その落ち着きが、少し救いになりました。
続けて聞かれました。
「どういったお悩みですか?」
胸がギュッと縮む。
言葉が出なくなる。
でも、逃げたくない。
私は用意していた言葉を、
勇気ごとさらけ出すように絞り出しました。
「色々あるんですけど……一番気になっているのは、目の下です」
言えた瞬間、
胸の奥の強張りが、少しほどけました。
悩みを“初めて言葉として明け渡した瞬間”。
それだけで心がわずかに軽くなる。
そんな感覚。
受付の女性はやさしく受け止めるように言いました。
「では、院長が診察しますね。
○日の○時でご案内できますが、ご都合いかがでしょうか?」
その日付を聞いた瞬間、
胸の奥が一度ふっと沈んで、
そしてゆっくり浮き上がりました。
怖いのに。
不安なのに。
私なんかが行ってもいいのか、まだ迷っているけれど⸻
私は小さく息を整えて言いました。
「はい。お願いします」
電話を切ったあと、
給湯室の壁にもたれたまま、
しばらく動けませんでした。
こわい。
でも、少しだけ嬉しい。
そんな相反する感情が混ざって、
胸がじんじんしていました。
でも私は、その小さな震えのなかで
確かに気づいていました。
“私はもう、戻らないんだ。”
メモには、細く小さな私の字で
◯月◯日 ◯時
カウンセリング
そう書いてありました。
期待という、小さな灯り。
いつものようにデスクに戻って仕事をし、
家に帰ってベッドに身体を沈めた頃。
鏡に映る顔は
1ミリも変わっていないはずなのに、
心の重さだけが、ほんの少し軽い。
「自分の人生を、自分の手で動かした」
そう思えたからかもしれません。
カウンセリングまでの1週間は、
ワクワクと緊張が交互に押し寄せて、
まるで遠足を待つ子どものように
指折り数えて過ごしました。
これまでスマホ越しに眺めていただけだった
遠いクリニックを、少し近くに感じながら。
— Juna

